原研究室(旧)

原辰徳

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研究領域


サービスの理解とデザイン

[2017] 使用行為を経た機能変容の解明と設計支援(原)

 本研究の目的は,使用行為と密接に結びついたサービスの概念設計の方法を,機能構成の立場から確立することにある.本年度は,使用行為を経た上での提供者とユーザのPDCAサイクルを相互に関連づけて理解し,サービスシステムの構成における相互関係に取り組んだ.まず,提供と使用の仕組みに加えて,設計の仕組みを明示的に含めたものとしてサービスシステムを定義した.すなわち,「サービスシステム=提供の仕組み+使用の仕組み+設計の仕組み」である.多くのサービスシステムにおいて,提供と使用の仕組みとを完全に分離して考えることは既に難しいが,さらにここでは「提供と使用の仕組みの一部が,設計の仕組みの一部として共有されるべき」と考える.本研究の主題である使用行為を経た機能変容はこれに相当し,逆に設計ありきで言い換えれば「良い設計を取り巻く仕組みを明らかにした上で,そのエッセンスを提供と使用の仕組みにあらかじめ上手く埋め込むべき」との主張になる.
 本研究の元となった「ユーザによる設計と使用を起点としたサービスシステムの構成的枠組み」を「良い設計を取り巻く仕組み」とみなせる.ここに含まれる各設計サイクルの実行期間や頻度を考慮した上で部分構造を取り出していき,サービスの設計パターンを探った.代表的なものは,(a)培ってきた設計環境をユーザ側に開放する,(b)ユーザ設計の観察・蓄積を次の提供者による設計に活かす,(c)ユーザ設計の蓄積を元にコミュニティで共創する,(d)ある1種類のサービスが多数の学びや解釈が付与されコミュニティにより拡散,(e)ユーザ設計の促進とユーザ体験の共有・伝搬とを日常的に連動,である.
 このような使用行為を含めた設計に対する形式的なモデルを準備できれば,論理的・演繹的に様々なパターンを検討できる.こうした様々な設計のあり方をより効果的・持続的に実現することを念頭に置きながら,サービスコンテンツ本来の提供と使用の仕組みを構築していくことを“サービスシステムの思考”と呼びたい.

[2017] ユーザへの機能提供につながるデータ利活用のモデル化・分析手法(原,岡田)

 昨今の製造業では,IoTの進展などを背景として,いかにしてデータ利活用によって付加価値拡大を図るかが課題になっている.本研究の目的は,ユーザへの価値提供につながるデータ利活用の設計支援である.まず,ユーザへの機能提供につながるデータ利活用をモデル化するために,CPS(Cyber Physical System, サイバーフィジカルシステム)の概念に新たにユーザ空間を加えた.さらにこのユーザ空間/サイバー空間/物理空間とは別にシステム内/外の区分を取り入れることで,ある特定のユーザ活動を起点としたデータ利活用をモデル化していく手法を構築した.次に,設計工学分野のDesign Structure Matrix (DSM)を用いて,複数のユーザ活動,すなわち事業全体におけるデータ利活用の構造を分析する手法に取り組んだ.
 構築した手法をスマートホームへと適用し,居住者への機能提供につながる様々なデータ利活用を可視化するとともに,その事業構造を分析した.その結果,データ利活用の部分構造(モジュール)の種別を明らかにすることができ,(a)ある単一のユーザ活動と密に結びついた部分構造,(b)複数のユーザ行動と密に結びついた部分構造,および(c)特定のユーザ活動との強い結びつきはなく共通的に使用される部分構造,の3つに分類されることが明らかになった.また,事業全体でのデータ利活用は,これらの部分構造の組み合わせで表現される.今後は,これらの分類を元に,データ利活用による機能提供の促進方法について検討する.

[2016] ユーザの要素を考慮した品質機能展開手法に関する研究(原,角南)

 製品開発の現場では,企画者と設計者が異なるために,企画段階では考慮されていたユーザの情報がその後の設計段階に十分に活かされないことが見受けられる.また近年,情報技術,通信技術,センシングなどの各種技術の発達によって,ユーザの製品使用に関するデータが集まるようになったが,それらを次の製品・サービスの開発にどのように活かすかが課題である.本研究では,サービス研究における価値共創の観点から,製品開発に広く用いられている品質機能展開に,提供者がユーザに求める「製品の使用方法に対する要求品質」と「能力・知識に関する品質要素」を組み込んだ分析手法を提案した.幾つかの例題記述を通じて,従来の品質機能展開では想定され得なかったユーザ要素の影響を含めた設計情報を得られることが示唆された.

[2016] Value Proposition Canvasの拡張によるサービスの分析〜サービスエコシステムの設計支援に向けて〜(原,金)

 Value Proposition Canvas(VPC)は,あるサービスや商品が顧客のニーズ(GainとPain)をどのような方法・手段(Gain Creators, Pain relievers)で満たすかを示す手法であり,実務において広く用いられている.企画段階に有効である一方で,既存のサービスに対して,具体的にどのような課題やギャップがあるのか,またはVPCを用いて改善の方向性を検討していくことは容易でない.本研究では,従来1つであったValue Map(提供物とニーズとの対応関係)を,AsIs(現状)とToBe(理想形)のそれぞれに対して書き分けることで,機能的な観点から,現状何が足りないのか,理想形との相違はどこにあるのかを明示化する方法を導入した.その後,カーシェアリングサービスの実証実験を題材に,各ステークホルダー間の関係をそれぞれのVPCを用いて記述し,現状を明らかにするとともに,改善の方向性を検討した.

[2015] ユーザに対する要求品質を用いたサービスの分析手法(原,村上)

 サービス学やサービス科学(Service Science, Management, Engineering: SSME)では,サービスを「物質的な製品か人間活動かの手段に依らない他者に対する価値創出行為」として広く捉え,そこに存在するサービス経済や生産・消費の論理を読み解くことが目指されている. マーケティング分野においては,サービス・ドミナント・ロジック(Service Dominant Logic: SDL)が提唱され,近年のサービス研究における潮流の一つとなっている.サービス・ドミナント・ロジックでは,サービス行為の本質は知識とスキルの交換であり,受け手であるユーザにとっても,提供されたサービスを活用する上で自身の知識と技能を供することが不可欠とされている.その意味で,サービスは提供者とユーザ間での価値共創(Value co-creation)と称される.また,Transformation Designのように,モノやサービスなど人工物そのものをデザインする考え方から,ユーザである個人・組織・社会の変化を促すデザインに注目が集まっている.そのため,提供者とユーザとの間での価値共創を実現していく上では,サービスを使っていく中でユーザの習慣や能力が変容していくことを認識し,その変容を促進するサービスを如何に設計するかが重要になる.
 本研究では公文教育研究会とコマツのKOMTRAXを事例対象とし,使用される中でユーザに変容をもたらすサービスの分析方法を検討した.製品設計における品質機能展開の研究を元に要求品質を導入し,提供者の機能とユーザの行動・能力に関する要求を要求品質の形式で記述する.要求品質の抽出手順をまとめ,分析手法を事例に適用することで,ユーザの行動・能力・習慣に関する変容と提供者の機能との関係を包括的に整理した.

[2015] 人工物の機能表現を用いたサービスエコシステムの設計方法(原,脇坂)

 ITの発達と普及に伴い,SNSやプラットフォーム型ビジネスのサービスが台頭している.そのようなサービスはサービスエコシステムと呼称されるが,それを手続き的に設計する手法はまだ模索段階である.本研究では,サービスエコシステムを「継続的なサービス向上のため にプラットフォーム上でインタラクションを行う複数主体から成るシステム」と定義する.我々は,サービスエコシステムにおける各主体の行動の枠組みをこれまでに整理してきた.しかしながら,この枠組みは行動則を記述したのみのものであるため,提供者が準備するべき機能については扱っていなかった.したがって,サービスエコシステムにおいて提供者が準備すべき機能の設計に関する方法論の構築が必要である.
 本研究では,本研究の対象範囲を提供者・個人ユーザ・ユーザコミュニティの 3 つの行動主体に限定した上で,「人工物の機能表現を用いたサービスエコシステムの設計方法」について取り組んだ.具体的には,以下の3つのプロセスから成る.

  • A) 個人ユーザの行動と使用される機能の設計
  • B) ユーザコミュニティの行動と使用される機能の設計
  • C) プラットフォームの機能の設計
 また設計手法のガイドラインとして,個々の行動・機能展開のルールおよび行動・機能展開のエンドルールを定めた.提案手法の評価として,既存サービスのモデル化および新規サービスの設計を行い,最後にそこから得られた考察および知見を述べた.今後は,本研究の提案手法を用いて得られたプラットフォームの機能を,実体に落としこむ方法論についても研究を進める必要がある.

[2015] 人と人工物との相互作用による価値創成〜使用行為を経た人工物の機能構成〜(原,太田,新井(芝浦工業大学))

 人工物工学研究センター(以下,本センター)では,2002年にサービス工学研究部門を設置し,サービスの工学的設計と生産方法に関する研究を進めてきた.本センターならびに本部門に関わった多くの関係者は,その後の日本国内におけるサービス工学/サービス科学/サービス学,すなわちコトづくりの進展において中心的な役割を果たしてきた.サービス工学研究部門での研究成果のひとつは,人工物全般に対する概念設計の方法論を基礎としたものであり,いわば,ものづくりの立場からのサービスの設計研究である.そこでは,機能の概念を中心に据え,有形的・無形的構成の双方から成るサービス行為の内容とその評価構造をモデル化していく.本研究により,計算機上での表現と演算が可能となり,サービスCADシステムと呼ぶ設計支援用のソフトウェアがこれまでに開発されてきた.
 2013年に開始した第III期では,これまでの立場をより明確にし,人工物と人との相互作用を経た価値創成に関する研究を推進している.人工物と人との間に成り立つ基本的な相互作用として,「利用者(人)が人工物に埋め込まれた機能を引き出し,人工物が利用者に機能を届けること」が挙げられる.これは人工物の使用行為そのものであるが,第III期の主要テーマである「個のモデリング」を推進する際の視点のひとつと考えている.近年のデザイン思考(Design Thinking)や人間中心設計(Human-Centered Design: HCD)などの領域では,顧客経験(User Experience: UX)という視座からモノゴトが眺められている.これらも,使用行為の観点から人工物の設計方法を見直す動きと捉えることができよう.
 本研究では,人工物,その利用プロセス,人工物の持つ機能の関係を,サービスに関する視点を取り入れながら検討し,使用行為を経た機能とサービスとの変容を,提供者と受給者による貢献とによって記述可能とした.それによって,交換価値と使用価値とを明確に表現できるようにした.別の言い方をすれば,サービス研究の分野で提唱されているサービスドミナントロジックの視点と人工物研究における機能中心の視点の融合により,人工物の交換価値と使用価値との関係を明らかにし,人工物の設計論的視点からサービス研究を前進させたものである.今後は,より詳細な検討を行いながら,サービスCADシステムへの実装を行っていく.

[2015] 対話型設計支援を起点としたサービスエコシステムのデザイン 〜就職活動支援サービスを対象とした実践〜(原,脇坂)

 サービスの競争力の獲得には,提供者と顧客との,あるいは提供者とサプライヤとの価値共創が重要な鍵となる.本研究ではこれまでに事例分析を行い,「顧客とサプライヤのサービスデザインへの参加」と「顧客とサプライヤに対するオープン性」を表現できる俯瞰的サービスデザインの枠組みを提案した.本枠組みは,4つのプロセスからなる基本デザインループの組み合わせで構成される.また事例適用を通してその妥当性をこれまでに評価している.  次に目指すサービスエコシステムの特徴のひとつはユーザによる利用のデザインであり,ユーザに対する設計支援をシステム化することで,エコシステムを構成するループの循環を促進することが図られる.本年度は,対話型就活プラン設計サービスの構築を通じて,これまでに提案した枠組みを元にしたサービスエコシステムの構築方法に関する論を深めた.本サービスでは,これから就職活動を始める学生に対して,様々な就職活動サービスの存在や就職活動をするにあたり明確にしておくべきことといった「ナレッジ」を知らせると同時に,自分にどのような就職活動が向いているのか(設計解),また内定を得るためには注力すべきことや内定に有利になる資格などの「スキル」に気付かせる.このサービスの中核となる部分では,ユーザである就活生との対話を通して,そのユーザに合った就職活動プランおよびそのユーザの希望に合致した内定を得られる可能性を向上するための行動を提案する.本サービスの有効性は,今後,実際にサービスを運用し,実際の就活生が利用していく中で判断される.また,サービスの利用から得られるデータをもとにした,内定ランクの判別や活動推薦の精度の向上を目指す.

[2014] 顧客とサプライヤを巻き込んだ俯瞰的サービスデザインの枠組み(原,脇坂)

 サービスの競争力の獲得には,提供者と顧客との,あるいは提供者とサプライヤとの価値共創が重要な鍵となる.本研究ではオープン・サービス・イノベーションの方法論の確立を大目的とした。そのためにまず事例分析を行い,その結果を基に,「顧客とサプライヤのサービスデザインへの参加」と「顧客とサプライヤに対するオープン性」を表現できる俯瞰的サービスデザインの枠組みを提案した.本枠組みは,4つのプロセスからなる基本デザインループの組み合わせで構成される.また事例適用を通してその妥当性を評価した.今後の展望として,サービス改善のためのガイドラインの作成や,サービス用の設計支援システムへの組み込みなどが挙げられる.

[2013] プロセスの構造パターン集を用いたサービスの提供プロセスの構成支援(原,三浦)

 従来のサービスCAD (サービス用設計支援システム)の研究において,機能モデルと提供プロセスモデルの統合利用によるサービスの設計方法が提案されているものの,両者の対応付けのための具体的な方法や構成支援は存在していなかった.そのため,提供プロセスモデルの構築の巧拙は,設計者の知識や経験に強く依存してしまっていた. この問題を解決するため,本研究では,条件分岐や同期などのプロセスの構造が予め定義されたWorkflow Patternsを利用した提供プロセスモデルの構成支援法を提案した.また,その構成支援法の中で,Workflow Patternsから設計者が目的に応じたテンプレートを選択可能になるよう,Workflow PatternsをISM法により階層化した.以上の提案手法をサービスCADシステム上に実装し,(a)支援なしの提供プロセスモデルの構築,(b)Workflow Patternsを用いた提供プロセスモデルの構築,および(c)ISM法により階層化した結果を利用した提供プロセスモデルの構築の3条件で評価実験を行った.評価実験の結果,提供プロセスモデルの構築に関する知識や経験に乏しい設計者に対して提案手法の有効性が示され,以下の結論が得られた.
 条件分岐は,多種多様な派生形があるとともに,その使用方法が多様であるため,その巧拙は設計者の知識や経験に強く依存する.Workflow Patternsのテンプレートによる援用は,こうした条件分岐を含むべき提供プロセスモデルの構築において,特に効果的に働く.
 Workflow PatternsをISM法により予め階層化しておき,それを設計者に段階的に提示していく構成支援によって,設計者の理解度が高まり,かつ使用目的・状況に合わせた利用が促される.一方,これはテンプレートの組み合わせを基本とした模範的・標準的なプロセスを構成する上で適している反面,より個別カスタマイズが必要な状況においては,Workflow Patternsのテンプレート一覧のみの提示と併用していくことが望ましい.



製造業のサービス化

[2018] 製品サービスシステム群の系列設計に向けた製品およびサービスの系列設計法のレビュー(原,福島)

 製造業では,より付加価値の高い提供物を生産するために,有形な製品に無形のサービスを組み合わせたシステム(製品サービスProduct/Service System: PSS)のカスタマイズ化が注目されている.しかし,カスタマイズされたPSS群(PSS系列)の設計において議論されるべき点は明らかになっていないため,文献調査を通じて,PSSのカスタマイズ化において今後研究されるべき点を明らかにした.
 具体的には,製品・サービス・PSSの系列設計に関する論文を調査し,「設計対象」と「設計方法」の2つの面において比較した.各々の分野の文献を系統立てて比較するために,PSS設計において用いられているモデルを基準にしたConcept Matrixを,製品・サービス・PSSの,それぞれについて作成した.
 調査結果から,PSSにおけるモジュール設計に関する研究を推進する必要性があることを指摘した.既に研究が開始されているサービスのモジュール設計は,サービスと類似した性質を持つPSSのモジュール設計を行う上で参考になることが分かった.

[2016] 製造業のサービス化における提供者-ユーザ間の知識移転モデルの構築(原)

 製造業のサービス化におけるポイントのひとつは,製品の使用に係る「ユーザや顧客企業の活動サイクル」に注目し,それらに対するサービスを検討していくことである.本研究では,昨年に引き続き,提供者とユーザ間の関係モデルを知識移転の観点から構築し,それらの連鎖を用いて,製造業のサービス化のプロセスをコマツのKOMTRAXを例に論じた.その中で,ユーザによる2種類の設計活動Design-in-useとDesign-of-useを促進するような環境整備が,サービス化を次のフェーズに進める上で重要であることを示した.これらは,これまでに我々が取り組んだ「使用と設計」に関する研究の成果を拡張したものである.また,ユーザの活動サイクルの分析のみならず,それと提供者の活動サイクルとの連関を理解することで,サービス提供と知識移転によって,サービスの機能構造の変遷がどのようにもたらされるのかを明らかにした.現在は,以上の枠組みを様々なサービスに対して適用できるよう,モデルの精緻化と定式化を行っている段階にある.

[2015] 製造業のサービス化における提供者-顧客間の知識移転モデルの構築(原)

 製造業のサービス化におけるポイントのひとつは,製品の使用に係る「ユーザや顧客企業の活動サイクル」に注目し,それらに対するサービスを検討していくことである.対個人サービス(BtoC)の場合には,製品の使用に関わる幅広い顧客経験に注目することであり,対事業所サービス(BtoB)の場合には,製品利用に関わる顧客企業の業務活動により深く入り込んでいくことに相当する.このことは,顧客企業との長期的な関係を築くとともに,安定的な収益を得る(ストック事業)ことにつながる.この様な顧客中心/使用中心の考え方は,従来の製造業や工学分野が,設計→開発→製造→販売→使用→保守→廃棄という製品ライフサイクルを起点に物事を思考していたことと対照的であり,学術上の大きなテーマである.昨年度は,自動車業界における車載搭載ソフトウェアの開発に関するサービスを題材に検討を進め,顧客企業の活動サイクルの分析手法について示した.
 本年度は,上記から得られた知見を元に,提供者と顧客間の関係モデルを知識移転の観点から構築し,それらの連鎖を用いて,製造業のサービス化のプロセスをコマツのKOMTRAXを例に論じた.その中で,顧客による2種類の設計活動Design-in-useとDesign-of-useを促進するような環境整備が,サービス化を次のフェーズに進める上で重要であることを示した.これらは,昨年度に我々で取り組んだ「使用と設計」に関する研究の成果を拡張したものである.また,顧客の活動サイクルの分析のみならず,それを提供者の活動サイクルと有機的に接続し理解することで,サービス提供と知識移転とを通じて,サービスの機能構造の変遷がどのようにもたらされるのかを明らかにした.

[2016] 製造業のサービス化に向けた顧客企業の活動サイクルの分析手法(原)

 製造業のサービス化におけるポイントのひとつは,製品(人工物)の使用に係る「ユーザや顧客企業の活動サイクル」に注目し,それらに対するサービスを検討していくことである.対個人サービス(BtoC)の場合には,製品の使用に関わる幅広い顧客経験に注目することであり,対事業所サービス(BtoB)の場合には,製品利用に関わる顧客企業の業務活動により深く入り込んでいくことに相当する.このことは,顧客企業との長期的な関係を築くとともに,安定的な収益を得る(ストック事業)ことにつながる.この様な顧客中心/使用中心の考え方は,従来の製造業や工学分野が,設計→開発→製造→販売→使用→保守→廃棄という「製品ライフサイクル」を起点に物事を思考していたことと対照的であり,学術上の大きなテーマである.本研究の目的は,本テーマを深掘りしつつ,製造業の実務への応用が可能な実用的な手法を開発することにある.
 本年度は,自動車業界における車載搭載ソフトウェアの開発に関するサービスを題材に検討を進め,顧客企業の活動サイクルの分析手法について示した.本研究で示した手法により,開発活動サイクルに留まらず,生産管理および経営活動レベルにまで踏み込んでサポートサービスを検討していくことが可能となる.しかしながら,対象となり得る業務場面とその内容を標準化・テンプレート化した一方で,それらに対して,実際にどのようなサービスを提供すればよいかという問いは依然として残る.同一の業務場面を対象とした質が異なる様々なサポートサービスを,どのように検討していけば良いかが次の課題である.この課題に対しては,他の事例を参照する,サポートサービスの類型テンプレートから発想する,あるいは代行・支援・仲介などのメタモデルを準備するなどの方法が考えられる.

[2014] 製品サービスシステム群の系列設計案の評価(原,釣谷)

 近年,製品サービスシステムと呼ばれる,製品とサービスの統合体(以下PSS)のオーダーメイド型の設計開発が増加している.この際,顧客への個別対応と生産性向上とを両立するためには,PSS群に対する統合的な系列設計手法の開発が求められる.本研究では,製品サービスシステム群の統合的な系列設計を目指し,系列設計案を分析するための評価指標と評価視点を提案した.さらに,提案方法を計算機ソフトウェアに実装し,既存事例の系列設計案の分析,設計改善案の導出,および設計改善を実施した際の影響評価について行った.以上より,提案手法の有効性を検証した.今後の課題として,評価結果に基づいた具体的な設計支援の方策の検討が挙げられる.



観光情報サービスと社会展開

まち歩きと有名スポット巡りを両立させるまち歩き観光プランニング支援手法の開発(原,宮本,青池, ホー)

 本研究では,状況や旅行者ごとに違うまち歩きへの要望を,有名スポットを巡る観光プランに有名スポットの取捨選択や滞在時間を増やすという形で組み込むことで,まち歩き観光プランニングを支援する手法を開発した.検証の結果,有名スポットがどの程度まち歩きに適しているかが旅行者に分かるようにするための,穴場スポットや散策度がきちんと取得できたことが確認された.そして,ユーザ実験から提案手法によりまち歩きと有名スポット巡りを両立させることが,充実した観光につながる傾向があることが確認できた.

[2017] 旅行者と地域との共生に資する観光プランの作成支援技術の基盤化と社会実装(原,ホー)

 訪日旅行者が急増する中,観光案内サービスの強化が求められている.一方,受け入れ先となる地域の現場では,地域活性化を目指す上で,訪日旅行者の実態把握と地域の魅力の発信力不足に悩んでいる.我々は,首都大学東京 観光科学域 倉田研究室と協働し,CT-Plannerと呼ぶ観光プラン作成支援ソフトウェアを基盤技術として位置づけ,諸地域の行政組織・観光事業者に働きかけ,観光案内サービスに組み込んでいく社会実装活動を行っている.そして,それらのサービス提供を通じて収集した訪日旅行者の期待や行動データを利活用することで,地域と旅行者の共生に資する観光まちづくり活動の継続的な実施を支援していくことを目指している.このために,観光プランニング技術そのものに関する研究開発を継続した他,対応地域の増加と多言語化,観光案内業務への応用,観光まちづくり活動を支援するワークショップなどを実施してきた.本年度は実装活動の最終年度であり,旅行者に対するサービス展開では,次の成果が得られた.

  • 宿泊施設の客室設置端末:東北,関東,東海,関西,沖縄地域の大中規模ホテル23件に設置された数千台に搭載
  • 観光プロモーション:民間企業が提供する1件のサイト,観光協会や市町村などの地域側組織が提供する8件のサイトに搭載
  • 観光案内所:京王本線新宿駅附設の京王モール内に開設された観光案内所にブース設置
 また,開始当初の対応地区は10エリアほどであったが,実装終了時までには対応エリア数も80(多言語対応45)を越えた.ユーザ数そのものは他の商業サービスに比較すれば多くはないものの,2017年10月までに約8万回のプランニングをサポートし,「多様な地域を対象に,様々な場所・形態における観光案内サービスを安価に提供できる」ことの有効性を示すことができた.
地域主体の観光まちづくりの活動継続には様々な要因が考えられるが,本実装活動のアプローチの貢献は,そこに流れ込む旅行者情報を観光プランニングサービスの提供を通じて供給する仕組みである.CT-Plannerで作成されたプランの情報を,宿泊施設でのコンシェルジュ支援に即日活かすなど,関連性の強いユースケースとの連動や掛け合わせを図りながら,徐々に地域側の活動全般へと浸透させていくのが現実的と思われる.
 その他,個々のユースケース,地域・観光事業者向けの支援の詳細,今後の展開などについては,JST RISTEXのHPに掲載されている実装活動終了報告書を参照されたい.

[2017] 人込み情報を対話的に提示する旅行計画支援手法の構築(原,青池,ホー)

 近年では訪日旅行客が増加しているが,増加に対して観光スポットのキャパシティを変えることは難しく,混雑の問題が今後予想される.また,観光地や観光スポットによっては賑わいがより良い旅行体験につながる場合もある.ここでは混雑と賑わいをまとめて“人込み”と表現する.人込み,すなわち混雑や賑わいは観光体験に影響を与えうるため,計算機による観光プランニング支援においても扱っていくことが今後重要になると予想される.ここで,人込みに必要な対処は旅行者によって変わるという問題意識に立つ.旅行者ごとに人込みを扱うためには旅行者からのフィードバックを取り入れられる対話的支援が好ましいが,それらに関する先行研究は行われていない.
 本研究ではまず,スマートフォンなどのデバイスから取得されたGoogleの“混雑する時間帯”データを元に,様々な地域における観光スポットごとの時間帯別の相対的な人込みグラフを準備した.次に,人込み情報を対話的・段階的に提示するとともに,汲み取った人込みへの旅行者の意識をプランニングに取り入れていく手法を開発した.本手法では,ある観光スポットの人込みに対する旅行者の選択(混んでいても訪れたい/空いていれば訪れたい)を元に,その旅行者にとっての「人込みライン」と「賑わいライン」を人込みグラフ上に設定し,その間を適切な人込みとして定める.そして,これを受けてのプランの推薦時には,この適切な人込みに対応する時間帯を「訪問時間枠」として求め,制約条件として追加した上で探索を行う.
 CT-Plannerに登録されている32の地域,1,007のスポットに関して人込みグラフの準備可能性を調査したところ,離島を除く31の地域で48%の割合で取得できた.これにより,様々な地域に対する有効性を確認した.また,ユーザ実験の結果,「空いている時間」での訪問(すなわち混雑回避)を望む旅行者の選択に対して、訪問時間枠を追加した再計算から70%の割合で代替プランの提示ができた.これにより,提案手法による対話の効果が示された.

[2016] 旅行者と地域との共生に資する観光プランの作成支援技術の基盤化と社会実装(原,品川,形部)

 訪日旅行者が急増する中,観光案内サービスの強化が求められている.一方,受け入れ先となる地域の現場では,地域活性化を目指す上で,訪日旅行者の実態把握と地域の魅力の発信力不足に悩んでいる.我々は,首都大学東京 観光科学域 倉田研究室と協働し,CT-Plannerと呼ぶ観光プラン作成支援ソフトウェアを基盤技術として位置づけ,諸地域の行政組織・観光事業者に働きかけ,観光案内サービスに組み込んでいく社会実装活動を行っている.そして,それらのサービス提供を通じて収集した訪日旅行者の期待や行動データを利活用することで,地域と旅行者の共生に資する観光まちづくり活動の継続的な実施を支援していくことを目指している.昨年に引き続き,CT-Plannerの改良と基盤化を行うとともに,観光案内業務への応用,観光まちづくり活動を支援するワークショップの実施,各種メディアや展示会での積極的な広報活動,CT-Plannerの対象地域の拡大と多言語化などを進めた.詳細はJST RISTEXのHPに掲載されている年次報告書を参照されたい.

[2016] 観光プランの推薦技術を用いた地域の観光特徴の分析手法(原,品川)

 近年,各地域で集客のために地域の魅力を高める観光まちづくりのために,SNSや乗り換え検索の分析を初めとした観光ビッグデータ研究が盛んである.しかし,地方ではそもそもの分析対象となる情報が少ないという課題がある.本研究では,観光ビッグデータに拠らずとも,地域内での観光プランの特徴を把握・探索する手法を構築した.これは,対話型観光プランニングサービスであるCT-Plannerを土台に,有望プラン群の分布を可視化するとともに,アソシエーション分析による定量的分析を組み込んだ手法である.アソシエーション分析では,各観光プランを購買者の一購買行動,観光資源を購買アイテムと捉え,訪れやすい観光資源の組み合わせを導出する.そして,本手法を実装したツールをCT-Planalyzerと命名した.CT-Planalyzerが想定するユーザは地域住民および観光事業者であり,彼らが日頃から抱いている地域の観光に対する問題意識/イメージ像と,CT-Planalyzerが提示する内容とを突き合わせることでその地域の観光の特徴に関する様々な気付きが得られる.実際に上州富岡地区を題材にし,CT-Planalyzerを使った評価実験を行った結果.上州富岡の観光の特徴に関する気付きを得ることができた.ユーザの持つ事前知識や経験に関係なく地域の観光の特徴に関する気付きを得ることができ,CT-Planalyzerが有用であることが示唆された.

[2016] ユーザが判断しやすい多様な観光プラン生成手法の構築(原,形部)

 近年,多くの旅行者が個人で観光プランニングを行う傾向にあり,それを支援するニーズが高まっている.そのためには多様な解の比較を行う批評型の推薦システムと,細かな調整を行う要求追加型の推薦システムを組み合わせた計算機支援が適している.本研究では,これら批評型と要求追加型のアプローチを統合し,以下の手順から成る手法を構築した.まず,プラン間の類似度と距離を定義し,階層的クラスタリングを行うことで多様なプランを比較し易い形式でまずユーザに提示する.次に,ベースとなるプランを1つ選択してもらった後には,細かな調整が行えるよう,それに類似するプランを加点し推薦する手法を提案した.またユーザ実験を行い,従来のシステム(CT-Planner)との比較から,提案手法の評価を行った.その結果,多様なプランをユーザに複数提示することによって,なじみのない観光地であっても,観光資源に対する理解の深まりと自らの嗜好の明確化につながることが分かった.

[2015] 旅行者と地域との共生に資する観光プランの作成支援技術の基盤化と社会実装(原,品川,齋藤)

 訪日旅行者が急増する中,観光案内サービスの強化が求められている.一方,受け入れ先となる地域の現場では,地域活性化を目指す上で,訪日旅行者の実態把握と地域の魅力の発信力不足に悩んでいる.本研究では,首都大学東京 観光科学域 倉田研究室との協働の元,CT-Plannerと呼ぶ観光プラン作成支援ソフトウェアを基盤技術として位置づけ,諸地域の行政組織・観光事業者に働きかけ,観光案内サービスに組み込んでいく社会実装活動を行っている.そして,それらのサービス提供を通じて収集した訪日旅行者の期待や行動データを利活用することで,地域と旅行者の共生に資する観光まちづくり活動の継続的な実施を支援していくことを目指している.
 本年度は,CT-Plannerの改良と基盤化を昨年度と同様に実施するとともに,観光案内業務への応用,観光まちづくり活動を支援するワークショップの実施,各種メディアや展示会での積極的な広報活動,CT-Plannerの対象地域の拡大と多言語化などを進めた.詳細はJST RISTEXのHPに掲載されている年次報告書を参照されたい(http://www.ristex.jp/examin/imp/implementation/index.html).
研究上の観点で取り上げれば,CT-Plannerが生成・推薦する観光プランにおける頻度情報の可視化について取り組んだ.これは,CT-Plannerが推薦する有望なプランを重ね合わせて表示することで,どのような観光プランが利用者に対して推薦され,観光案内が行われ得るかを直観的に理解するための機能である.具体的には,観光資源については,個々の観光資源を中心としたカーネル密度分布によるヒートマップにて可視化する.観光資源間のルートについては,重ね合わせて表示することで濃淡により可視化する.これにより,例えばCT-Plannerが生成するプランと観光事業者が日頃認識しているモデルコースとの一致や差異を明示できるとともに,良く選ばれる観光スポットの組み合わせやルートなど,地域内の観光プランの特徴を把握することができる.本機能は,多地域展開の観点でいえば,ある地域の取材後に,作成したCT-Plannerがどう振る舞うかを大局的に理解するとともに,関係者に説明していく際に効果的であろう.

[2015] 観光プランの類似性を考慮した対話型観光計画支援(原,齋藤)

 2014年度の調査では,個人旅行の形態にて日本を訪れる外国人旅行者は全体の77%にのぼる.見知らぬ土地を訪れる個人旅行者が各自の嗜好に合った効率の良い観光プラン作成するためには,訪問先やその間の交通について膨大な情報収集をする必要があり,大変な労力を要する.それに対して,計算機によって観光計画を支援する試みが数多くされてきた.その一例であるCT-Planner(http://ctplanner.jp)は,Web上で日帰り観光の旅程推薦を行うサービスであり,旅行者との対話型設計をコンセプトに持つ.すなわち,システムから示された暫定的な推薦プランに対してユーザが詳細な要求を付け加えていく作業を対話的に繰り返すことで,ユーザの満足する観光プランを練り上げていく.CT-Plannerでは,様々な地域での社会実装やモニター調査を通じて「計画終盤において要求追加をした時に,気に入ったプランができている場合であっても,次に推薦される観光プランの内容が突然大きく変わってしまい,ユーザが困惑してしまうことがある」という問題が指摘されていた.
 本研究では,このような対話型の観光計画支援システム上での詳細設計における問題を解決するような新たなシステムを提案した.具体的には,まず地理的距離と観光嗜好別充実度を考慮した観光プランの類似性評価手法を提案した.本手法では,訪れる観光資源および移動の配列として観光プランをみなし,そして2つの観光プランの類似度を,配列解析の手法であるペアワイズアラインメントによって評価する.そして,その手法を用いて,詳細設計段階において要求追加前に類似する観光プランを推薦する対話型観光計画支援システムを提案した.評価実験の結果提案システムでは類似するプランを推薦する割合が70%~181%向上したことから,提案システムは詳細設計におけるユーザの困惑を低減するうえで有用であると考えられる. ただし,現在のアルゴリズムでは解の導出に40秒程度の時間がかかるため,実用を目指すうえでは応答速度を速める必要がある.

[2014] 旅行者の投稿写真に基づく季節に応じた観光プランニングシステム(原,品川)

 観光産業は関連産業への波及効果が大きく,各地で観光の魅力を発掘する試みが行なわれている.一方で,旅行者は,旅行計画を考える上で季節性を重視している.また,近年は団体客よりも個人旅行者が高い割合を占めるようになった.したがって,個人旅行客に対して季節に応じた旅行プランを提案するシステムが求められている.本研究では,SNS上に投稿された写真から旅行者の写真を選別し,その写真データを基に季節毎に観光資源を抽出する手法を提案する.そして抽出された観光資源を活用した,季節に応じた観光プランニング機能を実装する.具体的な手法の内容は以下の通りである.

  • 情報源となる写真データの収集を行い,写真のフィルタリングを行う.このフィルタリングでは,地域住民の写真を除外する.
  • フィルタリングをした写真の位置情報・密度情報を可視化するため,季節毎にポテンシャルマップを生成する.その地図から,高密度な部分を手動で点として抽出する.
  • その地点で撮影された写真が旅行者によるものなのかを選別した後,季節情報を付与した観光資源としてプランニングシステムに登録する.
  • 最後に,旅行者が季節を選択できる項目をプランニングシステムに設け,季節に応じた観光プランを旅行者に提示できるよう実装する.
オンライン写真共有サイトであるFlickrに投稿された写真を元に,2013年12月15日からの1年間に横浜市役所から3km圏内で撮影された写真を収集した結果,13,264枚であった.写真フィルタリング後には5,162枚が残り,観光ポテンシャルマップを経た結果,新たな横浜の観光資源として25ヶ所が得られた.横浜の観光協会の方へのヒアリングの結果,これらのうち17ヶ所が観光資源として適切と評価された.その中に観光協会の方がこれまでに未認識のものがあり,投稿写真を用いた旅行者目線での観光資源の発掘の有用性を示すことができた.  その後,観光資源として適切と評価された17ヶ所をCT-Planner上の新たな観光資源として組み入れた後,みなとみらい駅出発,元町・中華街駅到着,5時間の条件で観光プランニングを行った.春の条件下では3個,夏・冬では1個,秋0個,本研究で抽出した観光資源を含むプランが表示され,季節毎の楽しみ方に違いが表れた.今後は従来のCT-Plannerと比較したアンケート調査を行うとともに,他地域での検証を行う.

[2014] 個人旅行者による旅程計画行為の分析を通じた要求仕様策定の対話型支援(原,嶋田)

 我が国の観光産業の発展を目指す上で個人旅行の形態で観光する旅行者の存在が重要である.一方で,専門家ではない旅行者にとって不慣れな観光地を効率的に巡る観光プランを計画することは困難である.そのため,旅行者が行う旅程計画を支援する計算機システムを構築することにより,旅行者が日本観光をより楽しめるようになるとともに,システム利用を通じて旅行者の情報を獲得し,旅行会社や観光事業者のサービスを改善していくことが好ましい.この時,要求追加による対話型支援を基本アプローチとして据えることによって,自由度が高く旅行者ごとの観光の嗜好や旅行条件に即したプランのつくり込みを可能な旅程計画が望める. 本研究では,旅行経験に乏しい旅行者や対象観光地に不慣れな旅行者が行う旅程計画に対して,彼らの計画行為を基に要求仕様の策定を支援する方法を提案した.具体的には,旅行者の分析を通じて支援の対象者像を明確にするとともに,旅行者による計画行為を基にした対話的な要求仕様の策定支援を構築した.その特徴は以下の通りである.

  • 旅行者が定めた具体要求に応じて,旅行者の観光の嗜好を推測・提示
  • 旅行者が定めた旅行条件に変化を加えることで生じる観光プランの違いを可視化
ただし,以上の支援により,旅行者が計画支援システムから得る情報が増大する.この取捨選択を旅行者任せにすると負担が大きなものとなってしまう可能性がある.これに対し,旅行者が支援システム上で行う計画行為を基に,システムが旅行者の状態を推定し支援の是非の判断を行う方法を提案した.そして最後に,計算機上へと実装し,実際に当該システムを用いた評価実験を行い,以下の結論を得た.
  • 観光の嗜好に係る要求仕様の策定支援により,旅行者は目的地や旅行の時期などに応じた要求を明確に理解し,その要求をシステムに入力可能な形式で捉えることができる.
  • 旅行条件に係る要求仕様の策定支援として提示される追加観光プランは実際に観光を行う中で予定変更が生じた際に有用である.
  • 旅行者が行う計画行為について,旅程計画を始める際の旅行者の状態に応じた違いがみられた.初期状態ごとに推定に必要なパラメータを定めることでより正確に状態を推定できる可能性が示唆された.
  • 要求仕様の策定支援を行うタイミングについて,状態推定を行うことで不必要なタイミングでの支援提供が減る傾向が見られた.しかしながら,サンプル数が十分でないこともあり,本研究において統計的な有意差は認められなかった.状態推定による効果をより深く検討するための今後の施策として,サンプル数を増やすとともに,評価の方法を工夫することが挙げられる.
 今後は,本研究の内容が汎化されることにより,使用方法と使用される人工物の仕様とが複雑に関係するような設計問題に取り組むための重要な視点を与えることが期待される.

[2014] 旅行者と地域との共生に資する観光プランの作成支援技術の基盤化と社会実装(原,嶋田,品川,倉田(首都大学東京))

 訪日旅行者が急増する中,観光案内サービスの強化が求められている.一方,受け入れ先となる地域の現場では,地域活性化を目指す上で,訪日旅行者の実態把握と地域の魅力の発信力不足に悩んでいる.本研究では,首都大学東京 観光科学域 倉田研究室との協働の元,CT-Plannerと呼ぶ観光プラン作成支援ソフトウェアを基盤技術として位置づけ,諸地域の行政組織・観光事業者に働きかけ,観光案内サービスに組み込んでいく社会実装活動を行っている.そして,それらのサービス提供を通じて収集した訪日旅行者の期待や行動データを利活用することで,地域と旅行者の共生に資する観光まちづくり活動の継続的な実施を支援していくことを目指している. これは,一昨年度までのJST RISTEX 問題解決サービス科学研究開発プログラムでのプロジェクト成果を元にしたものであり,現在はJST RISTEX研究開発成果実装支援プログラムの支援を受けている.本年度は,CT-Plannerの改良と基盤化,上野・米沢エリアでの実装,多地域への展開の3つについて取り組んだ.詳細はJST RISTEXのHPに掲載されている年次報告書を参照されたい(http://www.ristex.jp/examin/imp/implementation/index.html).

[2013] 顧客参加型のサービス構成支援法(原,嶋田,荒谷)

 2013年9月に,科学技術振興機構 社会技術研究開発センターの問題解決型サービス科学研究開発プログラムのプロジェクトを終了した.本プロジェクトでは,観光産業を題材に得られた知見を積み上げ,サービス科学,特にサービスデザインの研究基盤となる方法論を構築した.詳細は成果報告のホームページ(http://www.race.u-tokyo.ac.jp/rosetta/)に譲り,ここではその概要をまとめる.
 本研究では,“デザインと利用を通じて対象の理解を深める”という構成的デザインアプローチに加えて,サービス科学の重要概念である顧客参加に注目し,提供者によるデザインと顧客によるデザインとを相互に関連づけるアプローチを採用した.まず,顧客のサービス利用経験に係るPDSAサイクル(Plan→Do→Study→Act)を基本形として準備した.そして,その派生形として,顧客主導のデザイン,顧客コミュニティ主導のデザイン,および提供者主導のデザインのサイクルについて論じた.そして,これらのサイクルを,顧客による利用フェーズを中心につなげることで,顧客によるデザインと利用を起点としたサービスシステムの構成的枠組みを俯瞰できる.本研究では,これを「顧客によるデザインと利用を起点としたサービスシステムの構成論」と呼び,Iced Rosetta(Integrated Customer Experience and Design Revolution organized by Service Theories, Technologies, and Actions:アイス・ロゼッタ)と名付けた.この構成論の各サイクルには,提供者が事前にサービスをつくりこむ提供型[十人一色],状況に応じてサービスを構成する適応型[十人十色],そして新たな価値を共に模索する共創型[十人百色]の3つのサービスデザインが含まれる.ここで重要なことは,どの型のサービスが優れているということではなく,それぞれの型に特徴があって,相互補完の関係にあるということである.構築した構成論のサービス分野における新規性・独創性は,「顧客経験を中心に据えた俯瞰的サービスデザイン」「価値共創のみに依らない多様な価値創成の協働方法」「サービス科学における研究基盤・研究要素マップとしての可能性」の3点である.本構成論は,サービス産業が実際に抱える問題解決に寄与すると同時に,サービス科学の研究基盤となり得る概念・理論である. さらに,上記の構成論を支えるものとして,4つの技術「顧客主導のサービスデザイン技術」「提供者主導のサービスデザイン技術」「利用解析の技術」「次なるデザインへの展開技術」を開発した.本プロジェクトでは,これらの構成論と関連技術を具体化し,観光産業における問題解決を試みた.具体的には,「訪日観光への期待と観光行動の分析に基づいた旅行者の類型化」「事前期待を高め,潜在需要を発掘する個人旅行者向けの観光プランニング支援ツール」「競争力の高いツアーを実現する提供者向けの観光ツアーの設計支援ツール」「観光行動の分析→次なるデザインへの展開支援」の具体的な技術を構築した.そして,個人旅行者によるプランニングと観光を起点とした,観光産業の新たな姿を構想し,世に発信していった.この基本アイデアは,従来の旅行会社中心のサービスづくりと,個人旅行者と旅行会社の協働によるサービスづくりとを組み合わせることにあった.個人旅行者の活動全般を対象として,彼らの期待や経験を効果的に吸い上げる仕組みを準備し,そこで吸い上げた新たな観光情報を旅行会社,観光事業者,旅行者コミュニティ間にて共有し,多様な種類のデザインへとつなげていくものである.これらは,フィールド提供企業の株式会社ジェイティービーないしはその観光旅行商品にのみに還元される成果ではなく,自治体・観光事業者等,多岐に渉る観光分野において広く共有し・展開していくことのできる成果と考えている.

[2013] 適応行動を考慮した対話型観光計画支援システムの構築(原,中村)

 観光立国に向けて,訪日個人旅行者の観光計画支援の必要性が高まっている.一般に個人旅行においては,不測の事態や状況の変化に応じて観光中に適応行動をとることが見受けられる.適応行動は,観光行動において重要な要素であるが,旅行者の経験に委ねられているのが現状である.本研究ではまず,既存の観光プラン設計支援システムで観光した際の適応行動の分析を行った.分析の結果,計画の修正は,計画と実際のずれが蓄積された観光後半に多く見られた.この分析に基づき,観光終盤の観光時間を拡張した別ルートの観光プランを作成するシステムを構築した.評価実験では,肯定的な評価も得られた一方で,追加観光プランの選択方法に課題が残った.



接客サービスと教育支援

[2017] 旅客心理を踏まえた気づきのスキル獲得を支援する演習教材の構成(原,立岡,福島)

 本研究では,新人客室乗務員(CA)が旅客心理に寄り添う気づきのスキルを獲得していくための学習教材の構成を目的とした.本年は,新人CAが熟練CAの接客過程を理解しやすいよう,これまでの研究成果を一部改訂した上で接客過程モデルを要約した.この提案モデルは,4つのステップ(@旅客心理・要求の推定,A接客行動案の検討,B接客行動案を絞り込むためのアプローチ,C接客行動/アプローチと旅客の反応の確認)から構成されており,旅客心理の推定が明記された点が特徴である.
 この接客過程モデルにしたがい,現場の熟練CAや新人CAからの意見を取り入れて,新人CAが発想しやすい訓練教材を構築した.本訓練教材の学習効果を評価する実験では,訓練教材により,旅客心理への言及は,“旅客心理の推定”に直接記述されるか,もしくは“接客行動案/アプローチの検討”に付随して記述されることを明らかにした.さらに,実験結果を通じて,異なる習熟レベルにある新人CAが旅客心理に寄り添う気づきをどのように習得していくかを説明する仮説的なプロセスが得られた.
 本訓練教材は,航空会社内の実務にて来年度より用いられる予定である.今後は,そこで得られるデータや知見を元に,本仮説を検証していきたい.

[2016] 客室乗務員の接客スキルにおける認知過程の分析(原,福島,立岡)

 前述した行動計測と行動観察の手法のみでは,実際の接客において,CAがどのような認知を行い,それぞれの接客行動に至ったのかを詳細に把握することはできないという課題がある.そこで本年度は,接客行動中におけるCAの認知過程を実験的に調べるための方法を構築するとともに,6名分のデータを分析した.具体的には,現実に近い接客行動を再現できるよう,乗客役のペルソナとシナリオを準備し,客室モックアップにて接客行動の記録した後,記録を参照しながら回顧的インタビューを実施した.質的研究手法の1つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)を用いてインタビューデータを分析した結果,達人CAは,乗客の様子を把握後に,乗客の要求,状況,取り得る行動,および自身が取り得る接客行動について,より深く考察していることが明らかになった.

[2016] 客室乗務員が接客的アウェアネスを習得するための学習支援環境の構築(原,釣谷,立岡)

 我々は,接客サービスの中でも客室乗務員をが持つ「気づき」に着目した研究を行っている.ここでの「気づき」とは,接客における他者および自己に対する意識(Awareness:アウェアネス)であり,乗客の要求を乗客が申告するより先に察して,対応する行動を探っていこうとする意識を指す.昨年度までに,行動計測や行動観察などを経て,気づきを伴う接客過程をモデル化してきた.このモデルによれば,勤続年数の長い客室乗務員(達人CA)による接客は,受動的・能動的な行動決定の適切な使い分けにより,要求の推定と行動,妥当性を確かめる働きかけ,反応に基づく推定の更新と次の行動,から成るサイクルを絶えず行うものと説明される.本年度は,構築したモデルを元に,新人CAの気づき習得を促進するための簡潔な教材を開発した.具体的には,ワークシートを用いた課題解決式の教材である.開発後,現役CAの協力を得て実験を行い,「接客的アウェアネスを伴う接客行動の検討に,提案教材による新人客室乗務員の学習の有効性」を評価した.その結果,乗客の要求の推定,状況に適したアプローチ方法の検討の2種類の要素においては,既存教材と比較して,提案教材を使用した学習が有効であることが明らかになった.

[2015] 行動観察と行動計測による客室業務の接客過程モデルの構築(原,釣谷,立岡)

 2020年の東京五輪や観光立国実現に向け,日本ならではのおもてなしに対する学術的な理解が求められている.十分な理解を得ずにサービスにおけるおもてなしを盲目的に推進することは,時に過剰サービスとしてニーズとの不一致を引き起こし,不満につながる危険性をはらんでいる.一般に,おもてなしの特徴は主客一体での場の創出に必要な決まりごとの付与にあるとされるが,本研究では,おもてなしの背後にある提供側の行動全般を対象とする.  近年の航空業界に目を向けると,世界の航空旅客数も概ね右肩上がりに推移しており,今後も堅調な成長が見込まれている.一方でLCCの台頭によるエアラインの乱立が続いており各社の競争力の維持が重要となっている.国内航空業界を牽引する全日本空輸(ANA)では,国際線ネットワークの強化に併せて客室乗務員(Cabin Attendant: CA)の採用数は増加傾向にある.そこでは,勤続年数の長いCAの持つ卓越した接客スキルを継承すべく,若手CAの育成に力を注いでいる.CAのキャリアの構造上,入社数年の若手のうちから新人CAを指導する役割が求められ,教育の効率化が急務である.客室業務はおもてなしを含む対人接客サービスの好事例であり,業務経験による差が大きく表れる接客スキルとして,我々は「気づき」に注目した.気づきとは「乗客の要求を乗客自身が申告する前に察するとともに,その要求を満たす行動を探っていく」ことに関する一連の認知スキルを指す.ANAは日本で唯一SKYTRAX社調べの5スターを獲得しているため,ANAのCAは,高度な気づきのスキルを有していると捉える.現状,気づきに関する社内教育は接客事例集による知識学習と日常業務の中での経験を軸に行われているが,座学の内容と実務での体験が必ずしも結びついていない実状が認められた.これは,複数の習得知識を統合するための,気づきの学習方法が未だ無いために起きている課題と考えられる.
 そこで本研究では,若手CAが客室業務における気づきの概念を理解し,習得していくための方法の構築を目的とした.具体的には,気づきと呼ぶCAの接客スキルの学習支援を目的に,実際のフライトを対象とした行動観察と行動計測を行った後に,現場とのワークショップを行い,受動的行動決定と能動的行動決定から成る客室業務の接客過程のモデルを構築した.行動計測では,産業技術総合研究所の協力の元,屋内測位のひとつであるPDRシステムを用いた.行動計測の実験を経て,人手による行動観察から得られる位置情報を補正に一部使用するという条件がつくものの,若手CAと熟練CAの大まかな行動の違いを分析可能な情報提示環境を構築できた.気づきを伴う接客過程のモデル化については,想定しやすい受動的な行動決定モデルの他,声がけを代表とするような能動的な行動との組み合わせが重要であることを示した.今後は,認知科学におけるメタ認知の概念との整理を図りながら学習に向けた具体的な環境や道具立てを構築していく.また,地上の訓練センターにおいて小規模な実験系を構築し,CAの振る舞いの計測・観察することで,これまでの結果を検証する.



ユーザ経験の表出化と支援

[2018] 生理情報を活用した購買に関する顧客心理の表出化手法(原,浦田, 角南)

 近年の製品・サービス設計は従来の機能中心設計と異なり,ユーザである人間を中心に位置づけた人間中心設計が行われるようになった.ユーザ心理を捉える基本的な方法としては,製品・サービスに触れるなど特定の体験後に行うインタビューとアンケートがある.しかしながら,インタビューとアンケートでは,体験中の逐次的な心理状態の変動までを的確に把握することは難しい.近年の生理計測技術の進展を元に,本研究では脳活動による生理計測情報を用いながらユーザの心理状態を逐次評価するとともに,それらを総合した定量的な解析方法を開発することを目的とする.
 まず本研究では,ネットスーパーを用いた購買体験を対象としたユーザ実験を行った.実験協力者の主観的な評価を測定するため,タスク実行過程における逐次的な主観報告を可能にする主観評価入力デバイスを開発し導入した.客観的な評価指標は,簡易型脳波計測,視線計測などにより生理情報をリアルタイムに測定した.購買体験終了後,実験協力者には購買体験に関する事後アンケート及び,実験での記録・計測データをもとに,回顧的インタビューを行った.
 記録・計測データについては,主観・客観両指標を考慮し,購買体験の類似度分析を行った.分析には,配列解析の手法であるマルチプルアラインメント,およびクラスタ解析手法である近隣結合法を用いた.分析結果から,ユーザが買い物に(満足している)/(不満を感じている)際の生理指標の現れ方の特徴を見出すことができた.

[2017] 主観評価と生理情報を併用した購買経験の表出化(原,角南)

 近年,技術の発達に伴い,脳活動・心拍・視線など,様々な生理情報を計測することで顧客心理や行動の仕組みを解明し,マーケティングに応用しようとする試みが進んでいる.その代表的なものが脳波に注目したニューロマーケティングと呼ばれるものである.一方,サービスデザイン手法のひとつとして,カスタマージャーニーマップがある.これは感情の起伏を含めた顧客体験を流れに沿って記述するものであり,主に企画時に有効である.その意義と使いやすさから実務的に広く用いられているものの,マップ内に想定された感情や体験がその通りに行われるかを確かめたり,あるいは実際の行動からカスタマージャーニーを再構成したりすることは容易ではない.
 本研究では,人の購買行動に着目して,購買行動中の主観評価(内観報告)と生理計測情報とを組み合わせることによって顧客体験を表出化させ,より精緻なカスタマージャーニーマップを構成していくことを目指している.本年度は,ネットスーパーでの購買行動に対象を定め,実験協力者が負荷なく自然に主観評価を都度行うことができる入力デバイスを開発し,それと市販の非侵襲型の簡易脳波計測装置と視線計測装置から得られる生理計測データと組み合わせることで,先に示した研究コンセプトがどのようなものであるかについて試験的に取り組んだ.今後は,具体的な実験を通じて検証を行っていくとともに,データの併用方法,新たなカスタマージャーニーマップの構造定義,およびその具体的な構成方法などについて検討していく.



人とその変容を対象としたサービス研究

[2018] 地域コミュニティの持続可能性を高める住民の変革とゾーンデザイン(ホー, 原)

地域共助サービスの利用を通じて地域コミュニティへの住民の参画が促されるプロセスを明らかにするために,サービス・ドミナント・ロジックに基づいて「アクター変革のためのサービストポスモデル」を提案した.価値受容のみを行う受容者状態の住民が,サービス利用を通じて資源伝達を行う準行為者という状態を経て,地域コミュニティのための価値提供にも参画するジェネリックアクターへと変革する.さらに,本稿はゴール指向要求工学に基づくモデリング手法を援用し,地域共助サービスの事例分析を踏まえて,地域コミュニティをサービスエコシステムとして描き出す手法を提案した.これは,一個人の住民とその集合体としての地域コミュニティの依存関係の記述を通じて旧来の行政区分に過度に依らない地域コミュニティの持続可能性を高めるゾーンデザインを行う手法である.

[2018] 修学旅行生の地域づくりへの関心を高めるスタディツアーの効果分析(ホー, 寒川,原)

人口減少と高齢化によって,地方部では地域づくりの担い手が不足している.若年層の地域づくりの担い手を増やす手段として,本研究は修学旅行生を対象としたスタディツアーに着目する.質問紙調査を実施し,332名の有効回答を得た.共分散構造分析の結果から,スタディツアーを通じて地域課題に関する知識を獲得することにより,修学旅行生は地域づくりへの関心を高めることを明らかにした.さらに,この効果はスタディツアーにおける共創的な学習から自己効力感を高めることによって促進される.本研究はスタディツアーの有用性を示すことで,学ぶ観光による若年層の地域づくりへの関心向上に関する新たな知見を加え,地域研究の発展に寄与する.

[2018] 宅配サービスの利便性が顧客心理と行動にもたらす影響の分析(原,ホー,濱野)

 産業技術総合研究所・筑波大学と共同では,NEDO 「人工知能技術適用によるスマート社会の実現/空間の移動分野」において「物流サービスの労働環境改善と付加価値向上のためのサービス工学×AIに関する研究開発」を実施した.昨年度に引き続き,東京大学は主に「サービス・トライアングルと地域社会の持続性に関する分析およびサービス設計」に取り組んだ.
 荷物の再配達が増え,宅配業者が疲弊している.まず,昨年度に実施した,宅配利用に関する顧客アンケートに対する共分散構造分析から,顧客心理が顧客行動に与える影響について定量的に分析した.分析結果から,当事者意識がサービスの実現に必須の行動を強く促進する一方,再配達割合を少ししか直接には減退しないことを明らかにした.次に,再配達割合が減退しない要因をマクロなシステム視点で分析するために,要求工学のモデリング手法であるi*(アイスター)を援用し,他アクターや配送オプションを含む宅配サービスのシステム分析を行った.分析結果から,顧客の当事者意識が荷物を受け取れる割合を必ずしも促進しない要因を明らかにした.最後に,本手法を用いて物流サービスに係る顧客参加およびエコシステムの構成を宅配オプション等に応じて複数種類作成し,物流サービスの国内最大手企業にヒアリングしてバリューチェーンの変革に向けた3種類の指針を得た.顧客の当事者意識は参加行動を増やすが,再配達を直接軽減する効果は薄い.そのため,(i)参加行動を再配達削減に接続すること,(ii)当事者意識の高い顧客の再配達削減を阻害する要因を取り除くこと,(iii)当事者意識の低い顧客の当事者意識を高めることの3種類の指針に沿ったバリューチェーンの変革の重要性を明らかにした.
前年度に実施したWebアンケート結果の詳細分析からは,物流サービスにおいて顧客が荷物の受け手としてだけでなく,送り手としてもエコシステムに参加していると彼らの利他意識は利他行動を促進することを明らかにした.逆に,荷物の受け手としての経験しか持たない顧客は自分本位な消費行動に終始するか,利他意識があったとしてもサービス提供者の負担軽減に効果的に繋がる利他行動を取るわけではない.このアンケート結果で得られた知見を深めるため,平成31年1月に追加のWebアンケートを実施し,メールやLINEでの通知などの配送オプションや宅配ロッカーの利用と顧客参加の関係性を重点的に調査した.その結果,配送オプションを利用する顧客の方が参加行動を取り再配達が少ないことがわかった.

[2017] 新たな物流サービスのデザインに向けた一般消費者の意識分析(原,ホー)

 産業技術総合研究所・筑波大学・東京大学では,NEDO 次世代人工知能・ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術分野(先導研究プロジェクト)において「物流サービスの労働環境改善と付加価値向上のためのサービス工学×AIに関する研究開発」を本年度より実施した.
東京大学は主に,物流サービスの労働負担軽減のために消費者の意識調査を実施し,受け手・送り手・物流業者の三者からなる「サービス・トライアングルと地域社会の持続性に関する分析およびサービス設計」の研究開発項目に取り組んだ.2018年1月に宅配サービスにおける消費者の意識や参加行動に関するWebアンケート調査を実施し,30,000件の回答を元に,消費者のサービスプロセスへの参加意識を示すモデルを構築した.消費者のサービスプロセスへの参加意識は自己効力感と共同体感覚の強さによって3段階のレベルに類型化できることがわかった.この参加意識のレベルが高いほど消費者はサービスプロセスに積極的に参加する.
 同調査では,サービス設計の技術開発に向けて,「宅配ボックスや預り所に自ら荷物を取りに行くことで利用料金が安くなるサービス」と「自分が不在の際に隣人や地域の人が代わりに荷物を受け取ってくれることを受容するサービス」の利用意向についても質問し,新たなサービス創出の可能性を探った.前者に関しては,参加意識のレベルによる利用意向の差は見られなかった.一方で,後者に関しては,参加意識が高い人ほど利用意向が高いことがわかった.この参加意識は物流サービスに対する満足度と物流サービスによるQoL向上とも正の相関がある.
 次に,地域社会における物流サービスのエコシステムの構造をモデル化するために,同調査で得られた自由回答項目に対するテキスト分析を実施した.消費者が経験した物流サービスにおける主なトラブルとして,「荷物取り扱いの不備」「消費者の指示を守らない」「配送の不備」「従業員のミスや態度の悪さ」に関するものが明らかになった.次に,バリューチェーンの結果的な歪みであるこれら4つのトラブルを解消する新サービス創出の可能性を分析するために,荷物の受け取り場所や受け取り方法に関する項目のテキスト分析を実施した.その結果,AIやICTの導入による消費者一人一人の利用コンテキストに沿ったパーソナライゼーションと,交通機関や商業施設を巻き込んだコミュニティ資源の統合が重要であることが示唆された.

[2017] 地域コミュニティの持続可能性を高めるサービスエコシステムのデザイン手法開発(ホー,原)

 日本社会は高齢化が進み,地方部を中心に地域コミュニティが弱体化している.近年,地域コミュニティの持続可能性を高めるために,地元住民が主体となって地域共助サービスを展開するようになった.本研究は地域コミュニティをサービスエコシステムと捉え,サービスエコシステムが自己調整的且つ自己完結的であるために地域共助サービスがどのように機能するべきかをデザインするためのサービスデザイン手法を開発した.地域コミュニティがサービスエコシステムとしての持続可能性を備えるには,価値共創に受動的な住民を能動的な資源統合者へと変革することが重要である.提案手法では,要求工学分野におけるモデリング手法であるi*とサービスマーケティングのアクター変革モデルを応用することで,住民の変革を促進するための資源およびアクターの行動意図に関する依存関係を記述する.加えて,地域共助サービスはその提供者が利用者と同様に地域の住民であることから,サービス提供者というアクターではなく(地域全体で担うべき)サービス提供に必要な行動として記述する.これによって,資源統合者の増加に必要な資源統合の関係性が明確になり,ボトルネックとなっている資源の発見や新たな資源統合によるイノベーションの可能性について議論することが容易になる.


生産システムに関するサービス研究

[2018] 自蔵センサ型全身モーションキャプチャを用いた倉庫内作業者の身体的リスクの評価(原,ホー,李)

ロジスティクス需要が伸びており,物流倉庫の重要性が高まっている.特に,発注された商品のピッキング(OP)作業は,従業員の健康に直接的な影響を及ぼす.しかし,既存研究では自己申告制もしくは録画法に基づく主観的なデータしか扱われてこなかった.したがって,本研究の目的は自蔵センサ型全身モーションキャプチャを用いて,倉庫内作業者の身体的リスクを自動的に評価するシステムを開発することである.
 IMUセンサを用いて作業者の姿勢および関節角度を計測する実験をおこなった.Rapid Entire Body Assessment (REBA)という指標に基づいて,作業者の物流倉庫での一般的な作業に関するリスクを評価する基準を示した.

[2014] 大規模空港における航空機地上走行の顧客満足度による評価(原,大丸)

 こんにち,航空業界では更なるグローバル化に向けて,大規模空港における航空機の増便が進められている.そのため,航空機が慢性的に混雑し,離着陸の遅延が生じている.航空機の混雑を解消し,更なる増便を行うためには,航空機のより良い地上走行方式の設計が不可欠である.地上走行における航空機の混雑を解消する際には,単に全体での走行時間が短くなるだけでは不十分であり,離着陸遅れによる乗客の満足度・不満度が重要な評価指標である. 本研究では,大規模空港における航空機地上走行を出発遅れに対する顧客満足度によって評価した.また,出発遅れに対する顧客満足度を向上させる航空機地上走行方式を提案した.
 まず,乗客にとって出発遅れとは何であるかを明らかにした.出発遅れの捉え方が乗客によって異なることを示し,出発したと感じるタイミングの違いによって,出発遅れ時間をそれぞれ定義した.次に,出発遅れに対して乗客がどのようにして満足・不満を抱くのかを,満足度を推定する満足度関数を用いて表現した.出発遅れを狩野モデルにおける当たり前品質とみなし,関数の形状を決定した.
 成田国際空港の航空機地上走行を対象として,出発遅れに対する顧客満足度を航空機単位で算出した.満足度推定の際に必要となる航空機の出発遅れ時間は,開発した成田国際空港の航空機地上走行シミュレータを用いて算出した.航空機地上走行の従来の評価指標である地上走行時間と,本論文の評価指標である満足度を五数要約で比較し,値のとり方が大きく異なることを示した.また,出発機の離陸順番を操作することで満足度の合計を向上させる航空機地上走行方式を提案した.提案手法を成田国際空港に適用し,満足度が向上するかどうかのシミュレーションを行った.その結果,有効性を示すに足りる満足度向上を図れる可能性を示した.

 

[2013]大規模空港における航空機地上走行の顧客満足度による評価(原,大丸)

 こんにち,航空業界では更なるグローバル化に向けて,大規模空港における航空機の増便が進められている.そのため,航空機が慢性的に混雑し,離着陸の遅延が生じている.航空機の混雑を解消し,更なる増便を行うためには,航空機のより良い地上走行方式の設計が不可欠である.地上走行における航空機の混雑を解消する際には,単に全体での走行時間が短くなるだけでは不十分であり,離着陸遅れによる乗客の満足度・不満度が重要な評価指標である.本研究の目的は,航空機地上走行を顧客満足度によって評価することである.これに対して,時間遅れに対する顧客の満足度関数と,各航空機における顧客の期待値の分布を用いて,各航空機の離陸遅れに対する満足度関数を算出した.また,成田国際空港における2種類の運行ダイヤに満足度関数を適用した結果,走行時間と満足度とで,2つの運行ダイヤ間の評価の関係性が変化することが示された.今後は,運行ダイヤ全体の定量的な評価に向けて研究を進めていく.



原の公的活動

[2016] 社会厚生を拡大する共創型プラットフォームに関する可能性調査(原,西野)

現在,さまざまな産業領域においてプラットフォーム(PF)事業が増加する中,その恩恵とともに問題点が顕在化しつつある.限られたリソースが有効活用され,社会厚生が拡大される社会へと進むためには,多様な生活者のニーズとサービス提供者の資源の適切なマッチングにより,新サービスを創出できる共創的PFが望まれる. 本可能性調査では,PF事業者,生活者,サービス提供企業のそれぞれの立場を担保した上で,宿泊予約PFに対する宿泊事業者の認識とニーズ調査,農業情報PFの構築過程の調査,パーソナルデータの利活用における制度整備と受容性調査,およびユーザ参加型の開発PFの調査などを行った.これらを通じて,近い将来に起こりうる課題やリスクを明らかにするとともに,従来の仲介型PFから開発環境型PFへと移行し,さらに社会厚生の拡大に向けた共創的PFを目指していく上で必要な研究課題を整理した.

[2015] 未来を共創するサービス研究開発プログラムに関する検討(原)

 昨年度までに行った科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(JST RISTEX)のサービス学将来検討会での活動成果を取りまとめ,「サービス学将来検討会 活動報告書〜未来を共創するサービス学を目指して〜」を発行した.本活動報告書を受けて,JST RISTEX内での次期サービス科学プログラムの創設に向けた可能性調査(Feasibility Study: FS)の実施が決まり,その公募が2016年4月下旬より開始されている.詳しくは,http://www.ristex.jp/servicescience/topics/news/20151125_info.html を参照されたい.

[2015] オープンデータの利活用推進、およびパーソナルデータ・シェアリングエコノミーに係る制度整備に関する検討(原)

 内閣官房 IT総合戦略室でのワーキンググループおよび検討会に構成員として参画し,上記に係る各種ヒアリングや検討活動を行った.詳しくは,以下を参照されたい. http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densi/index.html およびhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/kaikaku.html

[2014] 未来を共創するサービス研究開発プログラムに関する検討(原)

 2010年に発足した科学技術振興機構 社会技術研究開発センターの「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」(通称 S3FIRE)の活動は,2016年9月を以て終了を迎える.S3FIREは,2008年に設置された文部科学省 科学技術・学術政策局の「サービス科学・工学の推進に関する検討会」から出された提言書「サービスに新たな可能性を求めて〜サービスイノベーションのための提言〜」が元となり設立されたものであった.この提言書から6年が経過し,世の中も大きく変化をした一方で,S3FIREなどの活動を契機とし,サービ科学が社会に貢献すべく成果が表れつつある.また,2012年にはサービス学会も設立され,サービス科学に関する日本国内のコミュニティが拡大しつつある.この様な背景の下,サービス科学研究の発展と更なる社会への貢献を求め,S3FIREでは若手研究者および実践者からなる「サービス学将来検討会」を2014年6月に立ち上げた.原は本検討会の座長を務め,サービス科学が目指すべき将来像を検討するとともに,その将来像を実現するためにはどのような次期プログラムが必要なのかについて討議し,構想を行ってきた.
 本検討会では,旧来の「問題解決型アプローチ」にとらわれることなく,「未来共創型アプローチ」によって,サービス研究開発が持つ社会へのインパクトを最大限に引き出すことに着目してきた.未来共創型アプローチを端的に言えば,新たな知や社会の動向を起点に為し得る社会像を描き出し,それを実現するための潮流を共創しようとするものである.したがって未来共創型サービスの研究開発では,進むべき未来像とそこでのサービス像を原型として,実社会における多様な関与者と協働しながら,その姿を体感できる様な新たなサービスの開発と実践とを漸次的・同時並行的に行っていく.また,その上では,デザイン,行動変容,制度変革などが新たなキーワードとなり得る. 現行のS3FIREに対する総括も中途であることから,提言書の完成には未だ至っていない.提言書の位置づけは,サービスに関わる最新の動向を広く世に伝えるとともに,一案とした示した次期プログラム案を元に関係各所に対して研究開発の支援を求めていくためのものである.今後,提言書を纏めるにあたっては,想定されるプロジェクトや具体的な研究開発テーマの例を拡充しつつ,Whatについて議論を進めていきたい.